糸島市 FP教室講師のブログ

FP社労士がファイナンシャルプランニングの学習を勧めたり、労務についてコメントするブログbyTWO-FACE社労士FP事務所(福岡市)-記事冒頭にプロフィールリンク

交渉の手法③

poker

さて、シリーズで投稿してきました交渉に関する記事の3日目は、権利を行使する交渉をテーマに解説していきます。

 

権利に関する交渉

キング牧師

権利に関する交渉としては、権利を行使する交渉のほか、権利を拡大する交渉や権利の縮小を防ぐ交渉があります。 権利を拡大する交渉や権利の縮小を防ぐ交渉もとても重要なのですが、これらは選挙やデモなどの民主主義の運動によって実現されることが多く、家計においては即効性のあるものとは言えません。

家計において、より即効性があり重要なのは権利を行使する交渉です。この権利を行使する交渉を詳しく見ていきたいと思います。

権利を行使する交渉

私たちは義務とともに権利を持っています。持ってはいるのですが、日本人は国民性のためか、大多数の人が権利意識が希薄なために権利を主張できないでいる状況が多々あります。権利に関する格言として「権利の上に眠るものは保護に値せず」というものがあります。使えなければ権利は保護されないのです。

この記事では、

権利を確認できる

権利の使い方を知っている

権利を使った場合のシミュレーションができる

の3つのステップにわけて権利を行使する交渉を解説していきます。 ぜひスキルを身に着けて、自らの権利の侵害を回復することや、むざむざ権利を放棄してしまうことを防ぐことができるようになってください。

権利を確認できる

約款

私たちは立場に応じた権利を持っています。 しかしその権利はどのようにして確認すれば良いのでしょうか。

答えは書類を読むことです。 契約書、約款、重要事項説明書、交付目論見書、そして法律、判例、通達、 重要なことの多くは書類に書いてあるのです。口約束も契約の一種なのですが、口約束では時がたてば忘れてしまいますからね。

今は権利の確認をするためにはかつてないほど便利な世の中になりました。書類が電子化され検索サービスが高度に発達したために、必要は書類を簡単に取り出せるようになったからです。記憶の必要性が極端に小さくなったのです。

しかし、そこで新たに必要になるものがあります。情報リテラシーです。 必要な書類、つまり情報はネット上にあります。しかし必要でない情報、誤った情報もネット上に氾濫しています。正しい情報をみつけだすスキルが必要なのです。

そして、情報を見つけるだけでは足りません。情報を理解し自分の場合に当てはめるスキルや、一つの情報に囚われて足元をすくわれることを防ぐために状況を多角的に分析できるスキル、といった権利を確認するための基礎力が必要です。 これらは学習と経験によって身に着けていってください。

権利の使い方を知っている

最高裁

権利を確認し、権利を持っていることを知っているだけでは相手を動かす交渉の決定打にならないことがあります。 双方が権利についての理解が不十分な状況においては、自分は権利を持っている、と相手に伝えたとしても、相手にとっては怖さや強制力がないからです。

そこで必要になるのが権利の使い方についての知識です。この知識があって初めて、権利が相手にとっての怖さや強制力になるのです。

では権利を使うとはどういうことなのでしょうか。それは相手にとって強制力や影響力のあるしかるべき機関に申し立て、自分の代わりに命令ないし実行してもらう、ということです。

そのしかるべき機関の代表例、あるいは最終的な責任者は裁判所です。裁判所の命令は強制力があり、その強制力は刑の執行や行政執行、差し押さえといった実力行使によって裏打ちされています。 「(法律が通じる状況においては)無敵の裁判所の判決を味方につけること」 権利の行使を一言でいうのならばこのように表現できるのかもしれません。

裁判所への申し立てとは具体的には「訴えの提起」です。敷居の低い少額訴訟などは自分で手続きができるよう、理解しておくことをお勧めします。

また、しかるべき機関は裁判所だけではありません。 労働問題における労働委員会 不動産取引における不動産適正取引推進機構 銀行取引における全国銀行協会 など取引ごとに様々な機関が存在します。このような裁判外での紛争解決手段を提供する機関のことを裁判外紛争解決機関(ADR機関)と言います。

そのほか影響力という点では 自分と相手双方が納得する人格者信用できる○○ホットライン といった人や仕組みも申し立てをするしかるべき相手になり得るでしょう。 「自分は権利を持っています。」というだけでなく、「そして、私はその使い方も知っているのです。私の権利が守られない場合にはしかるべき手段を講じることができるのですよ。」というスタンスを取ることが交渉を有利に進めるポイントです。

権利を使った場合のシミュレーションができる

交渉の予行演習であるシミュレーションの重要性は交渉全般に共通するものです。 権利の主張を含め交渉は自らの主体的な行動であるため、その結果については良い結果であれ、悪い結果であれ自ら責任を持つ必要があります。

悪い結果になることがないよう予行演習を綿密に行わなければなりません。 例えば会社内において有給を取得しづらい空気がある場合に、権利があるからといって声高に主張し、有給を周囲への配慮なく取得したとします。 その結果、社内で嫌われて仕事がやりづらくなってしまっては、有給を取得したことをかえって後悔することになりかねません。

有給の取得を理由にその人に不利益をもたらすことは判例により禁止されているとしても、その人を嫌うか否かは法律では禁止されていないのです。 このような失敗をしないためにも権利に基づく交渉の前にはシミュレーションが必要なのです。

シミュレーションはカードゲーム

poker

シミュレーションの考え方としては、手札をきりあうカードゲームをイメージしてみてください。交渉をカードゲームに例えるならば、1回目の記事からこれまで見てきた内容は下記のように置き換えることができます。

交渉の必要性、協調する交渉と戦う交渉 → このゲームのゴールはなにかということの理解。

交渉の余地の大きい取引 → このゲームにおける有効な戦略はなにかということの理解

権利と手段の確認、使い方 → 自分はどのような手札を持っているのかの確認方法の理解。

しかし上記の要素だけではカードゲームをうまくやることはできません。もっとも重要なのはこのゲームには相手がいるということなのです。(必ずしも勝ち負け決することがカードゲームの目的ではないため、うまくやるという表現を使っています。)

シミュレーションでは ・そもそもこのゲームのプレイヤーは全部で何人なのか、対峙するプレイヤー(交渉相手)以外のプレイヤー(利害関係人)がいないのか ・そのプレイヤーたちはどのよう手札(権利、手段)を持っているのか ・どのような戦略を使ってくるのだろうか といったことを考えることで、自分の手札を切ることで戦局がどう推移していくのかを推測することができるのです。

先ほどの有給の取得を例に物語風に考えてみます。

 

このゲームは有給を取得しづらい空気がある会社の中で、「私」が有給をうまく取得するゲームです。直接の交渉相手である社長は有給を憎く思っています。有給の買い取りなど他の案も考えてはみましたが、双方が納得する妙案は思い浮かびそうにもありません。戦いの交渉になってしまいそうです。 しかし、交渉の余地は大いにあります。そもそも有給は労働者がすでに持っている権利なのですから私が有給を放棄しなければならない理由はまったくありません。必ず妥結点があるはずです。それをいかに自分にとって有利な条件にするかを探っていこうと思っています。 奥の手としては労働局への申し立ても辞さない覚悟で交渉に臨みます。最悪の場合には退職さえも私の手札なのです。その場合にはたまっている有給を全て取得してから退職してやろうとも思っています。 しかし私は、一方ではできることならば穏便に有給を取得し、この会社で勤め続けたいとも思っています。 さて、社長に直接有給を取得したい旨を伝えてみましょうか。 いえ、あの社長のことです。激昂して報告書は?売り上げ目標は?他の社員は忙しそうにしているんだぞ、と問い詰めてきそうです。 確かにAさんの業務が最近忙しそうだということも事実です。ここで自分が休暇をとったならばAさんから反感を買うかもしれません。 それならばAさんの業務を少し手伝っておきましょうか。しかもその時に有給取得の理由を伝えて理解を得ておくと良いかもしれません。 Aさんはそれで大丈夫そうです。しかし社長はどうしましょうか。 前に他の人が有給を取得しようとしたところ、社長から時季変更権というものを理由に断われていたということもありました。しかし本当に社長は時季変更権というものを使うことができるのか疑問がわきました。 そこで調べてみると、やはり時季変更権には合理的でやむを得ない理由が必要ということになっています。これは大丈夫そうです。 しかし、穏便に有給を取得するためにはもう一工夫いりそうです。 そこで密かに退職を計画しているBさんも相当有給がたまっているはずだということを思い出しました。ひらめいたのはBさんに入れ知恵をして有給と取得させる作戦です。有給を消化させずに貯めておくリスクを社長に思い知らせることができるかもしれません。 さらに、私は最近有給取得の法律が変わるかもしれないという新聞記事があったことを思い出しました。 社長がBさんの悪口を言ってきたタイミングで、その話をうまく切り出せば、有給を貯めるリスクをさらに強調できて、私の有給の取得を切り出しやすくなるかもしれません。 ここまで考えて、私はBさんに 「あっBさん、ここだけの話なんだけど、退職計画進んでる?…」 と話しかけだしました。

 

… 上記は一例ですが、交渉のシミュレーションについての思考方法をイメージをしていただくことができましたでしょうか。

相手本位の考え方が結局は自分のためになる

最後に、交渉における最大のポイントは相手への思いやりや相手の立場に立った考え方です。 自分が損したくない、得したいと考えているのと同じように、相手もまた損したくない、得したいと考えているのです。

相手の目線を持ってシミュレーションをすることで、最終的には自分にとって有利な条件を引き出す交渉ができるようになるのです。

ぜひ交渉のスキルを身に着けて自分にとって有利な条件をうまく引き出せるようになってください。

 

TWO FACE社労士FP事務所 社会保険労務士 蓑田隆介